TOPIC 2025年版 高年齢者雇用安定法 対応企業実態調査 ―定年後の雇用環境整備が進む一方、シニア層の報酬見直しとモチベーション維持に課題が残る― 株式会社Works(ワークス) Human(ヒューマン) Intelligence(インテリジェンス)  2021(令和3)年4月より、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となりました。また、2025年4月からは、高年齢者雇用確保措置の経過措置が終了し、すべての企業で、希望者全員65歳までの雇用を実施することとなっています。企業には、高齢者雇用に関する法令への対応が求められるなか、株式会社Works Human Intelligenceは、大手企業における高齢者雇用への対応状況や課題、今後の取組みの方針などに関する調査を実施しました。本稿では、同調査結果の概要を紹介します(編集部)。 本調査の背景  少子高齢化が進むなか、働く意欲がある高年齢者がその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境の整備を目的として、「高年齢者雇用安定法」が定められています。2021年の改正では、60歳未満の定年禁止と65歳までの雇用確保に加え、70歳までの雇用機会を提供することが努力義務として追加されました。  この改正における経過措置の期限が迫っており、2025年4月には65歳までの継続雇用制度(再雇用・勤務延長制度)の義務化と、高年齢雇用継続給付の減額が実施されることとなります。高年齢者が活躍できる環境のさらなる整備が企業に求められるなかで、「高年齢者雇用安定法」への対応状況や、50歳以降のシニア層活用に対する方針や取組みを調査。2022年の調査結果と比較することで、企業がどのようにシニア層を活用しているか、またその対応がどれほど進展しているかを明らかにしました。 調査結果の概要 1 70歳までの雇用機会確保(努力義務)について、2022年調査から「何もしていない」と回答した企業が21.2%減少。一方、「65歳までの雇用確保(義務)への対応拡充を優先」の企業は24.3%増加。雇用確保が2年間で着実に進んでいることが明らかに。 2 定年年齢の引き上げを予定している企業の割合は36.7%で、2022年調査から10.6%増加。人手不足が続くなか、経験豊富な従業員の確保が課題となっていることが推察される。 3 定年以降の継続雇用における課題について、2022年調査と比較して「適切な勤務体系の用意」の割合が16.8%減少し、働きやすい環境の整備が進んだ。一方で、「対象者のモチベーション」と「対象者の報酬水準」を課題としてあげた企業は半数を超えており、これらの課題は依然として残っている。 4 定年後の継続雇用に関する今後の取組みについて、2022年調査から「継続雇用者の報酬水準の見直し」が14.7%増加。適切な報酬水準の設定が各社にとって重要な課題であることがうかがえる。 5 シニア層の活用方針について、2022年調査と比較し、「積極的に継続雇用・活用し、知見やスキルを業務に活かしてほしい」と回答した企業が13.8%増加。労働環境の整備が進み、シニア層の活用意識が高まっている。 6 役職定年制度を導入している企業は全体の34.7%。また、12.2%の企業が一度導入した役職定年制度を廃止したと回答。 《注》本稿は、株式会社Works Human Intelligence が2025年3月12日に公表したプレスリリースを基に加筆・修正したものです。 図表1 70歳までの雇用機会確保の実施状況 21年4月の法改正における、70歳までの雇用機会確保(努力義務)について、どのような制度を取り入れたか教えてください(複数選択可) 24年(n=49) 22年(n=92) 何もしていない 40.8% 62.0% 70歳までの対応を行う前に、65歳までの雇用確保(義務)への対応内容の拡充を優先 28.6% 4.3% 70歳までの継続雇用制度(再雇用、勤務延長制度など) 70歳以上への定年引上げ 定年制の廃止 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入 (a.事業主が自ら実施する社会貢献事業 b.事業主が業務委託、出資(資金提供など)する団体が行う社会貢献事業) 資料提供:株式会社Works Human Intelligence 図表2 定年延長に関する今後の取組み予定 定年延長について今後の取組み予定を教えてください(複数選択可) 24年(n=49) 22年(n=92) 特に変更の予定はない 定年年齢の引き上げ 36.7% 26.1% 定年延長後の報酬水準の見直し 定年延長後の業務内容の見直し 定年延長後の等級制度の見直し 定年延長後の評価制度の見直し 定年制の廃止 その他 資料提供:株式会社Works Human Intelligence 図表3 定年後の継続雇用者についての課題 定年以降の継続雇用者について、課題を教えてください(複数選択可) 24年(n=49) 22年(n=92) 対象者のモチベーション 65.3% 64.1% 対象者の報酬水準 51.0% 47.8% 対象者の評価制度設計 対象者に対する管理職のマネジメント 対象者と働く社員の働きにくさ 対象者からのスキルやノウハウの伝達 対象者に適切な職務がない 人事管理面の煩雑さ 人件費の高止まり 適切な勤務体系の用意 8.2% 25.0% 人員の余剰 特に課題はない 資料提供:株式会社Works Human Intelligence 図表4 定年後の継続雇用者についての今後の取組み予定 定年以降の継続雇用者について、今後の取組み予定を教えてください(複数選択可) 24年(n=49) 22年(n=92) 継続雇用者の報酬水準の見直し 40.8% 26.1% 特に変更予定はない 継続雇用制度内容の見直し、対象年齢の変更 継続雇用者の評価制度の見直し その他 資料提供:株式会社Works Human Intelligence 図表5 シニア層の活用に向けた会社の方針 シニア層の活用に向けて、貴社の方針について教えてください(複数回答可) 24年(n=49) 22年(n=92) 活躍が見込めるシニア層を継続雇用し、知見やスキルを業務に活かしてほしい シニア層は積極的に継続雇用、活用し、知見やスキルを業務に活かしてほしい 38.8% 25.0% シニア層の活用にはそれほど積極的ではないが、スキルの伝承や要員数確保のためには致し方ない わからない、決まっていない シニア層の活用にはそれほど積極的ではなく、最低限の制度設計はしておきたい シニア層はなるべく退出を促し、組織の新陳代謝を図りたい その他 資料提供:株式会社Works Human Intelligence 図表6 役職定年制度の有無 役職定年制度は存在しますか(n=49,単一回答) ない 53.1% ある 34.7% 以前はあったが廃止した 12.2% 資料提供:株式会社Works Human Intelligence 《注》本稿は、株式会社Works Human Intelligenceが2025年3月12日に公表したプレスリリースを基に加筆・修正したものです。 解説 株式会社Works Human Intelligence WHI総研 シニアマネージャー 伊藤(いとう)裕之(ひろゆき)  2021(令和3)年4月の高年齢者雇用安定法の改正から3年が経過し、2022年の前回調査と比較して高年齢者雇用継続に向けた労働環境の整備、シニア層の活用意識が全体的に進捗していることがうかがえる結果となりました。  例えば図表5(50ページ)にある「シニア層の活用に向けて、貴社の方針について教えてください」という質問の結果では、「シニア層は積極的に継続雇用、活用し、知見やスキルを業務に活かしてほしい」という回答が大幅に増加しており、その進展が示されています。  この背景の一つとして、コロナ禍以降に顕著となっている全国的な人手不足の傾向があるとも考えられます。正社員・非正社員ともに求人数が増加する状況で、年齢にかかわらず企業内の人材を活用していくことが急務となっています。  シニア層については、一律の制度や運用ではなく、個人の働き方や能力、スキルに応じた労働条件の選択肢を増やし、そのうえでほかの従業員と同様に、働き方や成果に応じた報酬制度や評価制度を適用する動きが広がっていることが調査から見受けられました。ただし、これまで定年延長や継続雇用の課題の一つであった「要員の余剰」が人手不足傾向もあって結果的に解消されつつある一方、「対象者のモチベーション」という課題は依然として残っています。  モチベーション向上を目ざした報酬面の改善については、全国的な賃上げ傾向によって一律にはとりづらく、昇降給の導入や生活給の廃止など、個人ごとにメリハリをつけた対応が求められることになるでしょう。  報酬面以外の対策として有効なのが、定年年齢以前までのキャリア支援やスキルアップ支援です。  現在、キャリアやスキルに関する支援は若手層やマネジメント着任前後に偏っており、中高年層に対する研修やスキルアップの機会は不足していることが多いです。中高年層がキャリアを再評価する機会を早期に提供することが、シニア層のやりがいや満足感を高め、後々のモチベーション維持につながると考えられます。  また、今回の調査では役職定年についても調査を行いました。役職定年を導入している企業が3分の1存在する一方、廃止した、または廃止を検討している企業も20%程度存在しています。導入している企業の半数以上が、年齢による自動的なポストオフには至っていないことがわかりました。  役職定年の目的である管理職層の循環や世代の適正化に対して、管理職の人材不足や業務負荷の増大といった課題が多いため、スムーズに進行できていないことがうかがえます。  少子高齢化という社会的な構造変化と、それにともなう人手不足のなかで、シニア層の活用は多くの企業にとって避けては通れない人事課題となるでしょう。